« 「山行」(遠く寒山にのぼれば石径斜なり)  杜牧 | トップページ | 「酒人某出扇索書」(一杯人が酒を呑み)  菅茶山 »

2007年12月19日 (水)

「静夜思」(牀前月光を看る)  李白

 

 

 

 

「静かな夜」

               AKY訳

寝室(ねま)にさす

月のひかりの 明かるくて

霜かと銀光(しろ)い 庭のつち

仰げば遥か 山影に

故郷(くに)を想って

枕みつめる

(原詩)       

 「静夜思」

     李白

牀前看月光

疑是地上霜

挙頭望山月

低頭思故郷

 

(読下し文)

 「静かな夜の思い」

             李白

牀前(しょうぜん)月光を看(み)る

疑うらくは是れ地上の霜かと

(こうべ)を挙げて山月(さんげつ)を望み

(こうべ)を低(た)れて故郷を思う


 

 「寝台の辺りに差し込む月の光、あまりの明るさに窓の外を見ると庭は土が白く光ってまるで霜が降りたようだ。顔をあげて、さら遠くの山にかかる月を仰ぎみているうちに、遠く離れた故郷のことが偲ばれて、自然と、うな垂れてしまう」。寝室、庭、遠い山月と、だんだん遠くの眺めに誘われ、そのうちに、はるか遠くのふるさとが思い出されてしまう。

 井伏さんの訳詩は、昭和十二年厄除け詩集のなかに掲載されているのですが、昭和一〇年の随筆「中島健蔵へ」の中でもこの詩の別訳があります。大岡信さんによると昭和八年に書かれた井伏さんの「田園記」という随筆には、「亡父の遺品の中から発見された」として一〇編の訳詩が掲載されているが、これらは、「芭蕉翁五世孫 石州在潜魚庵稿艸」と奥付に書かれた木版本「臼挽科」にある訳詩を下敷きにしているということです(厄除け詩集中、大岡信 「こんこんでやれ」)。

 潜魚庵とは、江戸時代石州(島根県)太田の俳人中島魚坊(一七二五~一七九三)さんのことです。

[(参考)他の方々の訳詩]

 「靜夜思」
          潜魚庵訳
子マノ内カラ月影ヲミテ
庭ニ落チタル霜カトオモタ
山ノヲ月ヲアオノキ見レバ
国ノ妻子ガオモワレル

 
        井伏鱒二訳
ネドコニユクトキイイ月ガデテ
ニハハマッシロ霜カトミエタ
月ノヒカリヲミテイルト
ヒトリ妻子ニアタマガサガル
 (昭和十年二月、随筆「中島健蔵に」)

         井伏鱒二訳
ネマノウチカラフト気ガツケバ
霜カトオモフイイ月アカリ
ノキバノ月ヲミルニツケ
ザイショノコトガ気ニカカル
     (昭和十二年「厄除け詩集」)

この「静夜思」の訳は「田園記」には、掲載されては、いないものですが、潜魚庵さんの訳と井伏さんの二つの訳とが少しずつ変えられている様子がわかります。

 

この詩には、他に松下緑さん、土岐善麿さんの訳があります。

 「ツキヌオモイハ故郷ノコト」
           松下緑訳
霜カトマゴウ月アカリ
旅ノマクラヲ照ラスカナ
マドノムコウハ山ノ月
ツキヌ思イハ故郷
(くに)ノコト

 
 「静けき夜の思ひ」
           土岐善麿
とこにさす月影
疑ひぬ霜かと
仰ぎては山の月を見
うなだれては思ふふるさと

(2008/05/27改訂)
「静夜思」の印刷用ファイル(b006_print.pdf)をダウンロード                   


|

« 「山行」(遠く寒山にのぼれば石径斜なり)  杜牧 | トップページ | 「酒人某出扇索書」(一杯人が酒を呑み)  菅茶山 »

暁遊詩集」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「静夜思」(牀前月光を看る)  李白:

« 「山行」(遠く寒山にのぼれば石径斜なり)  杜牧 | トップページ | 「酒人某出扇索書」(一杯人が酒を呑み)  菅茶山 »