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2007年12月21日 (金)

「照鏡見白髪」(宿昔青雲の志)  張九齢

 

 

 

 

 

「昔は、大きな夢も見た」

             AKY訳 

昔は、大きな夢も見た

いつしか白髪が増えました

鏡に映るわが形影(すがた)

(しわ)のそれぞれいとおしい

(原詩)

「照鏡見白髪」

   張九齢

宿昔青雲志

蹉跎白髪年

誰知明鏡裏

形影自相憐

 

(読下し文)

「鏡に照らして白髪を見る」

               張九齢

宿昔(しゅくせき)青雲の志

蹉跎(さた)たり白髪の年

誰れか知らん明鏡の裏(うち)

形影自(みずか)ら相い憐れむを



 

  この詩は張九齢全集である「曲江集」に、「照鏡見白髪聯句」として収められていますが、「唐詩選」には、掲載されていません。聯句とは、数人で一句ずつ、あるいは、二句を受け持って、詩を作るものですが、誰とこの聯句をつくったのか、また、どの部分を張九齢がつくったものかも、明らかではありません。
 張九齢(六七八~七四〇)は、広東省出身。則天武后の頃、進士に及第。玄宗皇帝に認められ、中書令(宰相)にまで上りました。その後左遷され余生をもっぱら文学に親しんだといわれていますが、そのような人がこんな詩を作るだろうかというので、本人の作かどうか昔から議論になっているということです。
とはいえ、人生の哀歓を詠んだいい詩だと思います。

 ところで、この詩の第四句「形影自相憐」の「憐」をどう読むか、ここにその人の人生観が表れるような気がします。この詩には、松下緑さん、井伏鱒二さん(潜魚庵さんも)の訳の他、会津弥一さんの和歌もあるのですが、 「憐れむ」の解釈で二つに分かれるようです。


 

 「憐れむ」には、文字通り哀れに思う、かわいそうに思うのほかに、いとおしい、可愛いの意味があります。井伏さんの訳詩は、ご覧のとおり、潜魚庵さんのものとそっくりで、どちらも、自分の人生を否定的に、哀れんでいるものとして訳しておられる。こちらには、会津弥一さんも組しています。
 一方、松下さんは、結果はともかく、自らの一生を懸命に生きた証としての白髪とみているのでしょう、「憐れむ」をいとおしいと訳された。わたしも急速に増加しつつある白髪については、「いとおしい派」です。

[その他、この詩で使用されている言葉] 

  • 宿昔、むかし、以前。
  • 蹉跎は、躓くさま
  • 形影、我が身と鏡に映った姿。「形影自ら相い憐れむ」については、鏡を覗き込む私自身の姿を想像して「しわのそれぞれ」としてみた。

[(参考)他の方々の訳詩]

「鏡に照らして白髪を見る」
 
                会津弥一
あまかける こころ は いづく しらかみ の
みだるる すがた われ と あいみる

 

            潜魚庵訳
出世シヨウト思テ居
(いた)ゾヤ
トカクスルマニトシヨリマシタ
ヒトリ鏡ニ向テミレバ
シワノヨッタガアハレデゴザル

 

           井伏鱒二訳
シュッセシヨウト思ウテヰタニ
ドウカウスル間ニトシバカリヨル
ヒトリカガミニウチヨリミレバ
皺ノヨッタヲアハレムバカリ

 

            松下緑訳
ワガ若キ日ノ夢ハテテ
歳月トミニ白ミタリ
カガミニウツルワガ髪ヲ
ヒト知レズコソイトオシム

(2008/05/26改訂)
「照鏡見白髪」の印刷用ファイル(b008_print.pdf)をダウンロード


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照鏡見白髮(鏡に照らして白髪を見る)。 宿昔青雲志  宿昔 青雲の志 蹉白髮年  蹉(さた)たり 白髮の年 誰知明鏡裏  誰か知らん 明鏡の裏(うち) 形影自相憐  形影 自(みずか)ら相い憐れまんとは 一言で言うと、鏡に白髪を見つけてショック……という詩でしょうか。我々には、ちと早いかもしれませんが。 作者の張九齡、盛唐の人。Wikipediaを紐解けば「開元最後の賢相」。左遷され、官を辞した後は故郷に帰り文学史書に親しんだ、との由。 ――左遷されてから... [続きを読む]

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