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2008年2月28日 (木)

A-096 「鶏鳴」(鶏既に鳴けり) 『詩経』 国風 斉

  

  「鶏鳴いたわよ」
               AKY訳

   さっき鶏鳴いてたわ
ねぇ、もう、お勤めにいかなきゃね

   「鶏鳴いたわけじゃない
     蝿の羽音がするだけさ」

 

   お空が明るくなったわよ
ねぇ、いそいでお勤め行かなきゃね

   「おひさまのぼったわけじゃない
     月が明るく照るだけさ」

 

   蟲がぶんぶん飛んでいる
   お昼よ、お勤め終いだわ

ねぇ、あなた
   夕べはとってもよかったわ
   
でも きっと みんなが噂してるわよ

(原詩)
 

鶏既鳴矣
朝既盈矣

 匪鶏即鳴
 蒼蝿之聲
 

東方明矣
朝既昌矣

 匪東方即明
 月出之光
 

蟲飛薨薨

甘與子同夢

會且帰矣

無庶予子憎

(読み下し文)
 

鶏既に鳴けり
(ちょう)既に盈(みち)

  鶏則ち鳴くにあらず
  蒼蝿(さばえ)の聲なり
 

東方明けたり
朝既に昌(しょう)たり

  東方則ち明けるにあらず
  月の出の光なり
 

(むし)飛んで薨薨(ごうごう)
(たの)しみて
 子
(そなた)と夢を同じくすれども

会(つとめ)は且(は)や帰(おわ)らん
(もろびと)の予(われ)と子(そなた)
     憎しみ無からんことを


 

 「ねぇ、あなた、もう朝よ。早く起きてお勤めに行かなきゃ。」
 「うーん。まだ、早いよ。もう少し寝かせてよ。」
 新婚早々の若い二人、奥さんは、ご主人を勤めに行かせようとせかしているけれど、ご主人のほうは、昨晩のお疲れがまだ抜けません。ぐずぐず言っています。女のほうも口では世間的なことを言ってはみたものの、本当は、やはり、離れたくない、一緒にいたいのです。新婚早々の若い男女の気持ちが伝わってくるような詩です。

 「詩経」(しきょう、Shī Jīng)は、中国最古の詩篇です。古くは単に「詩」と呼ばれていました。もともと舞踊や楽曲を伴う歌謡であったと言われ、各地の民謡を集めた「(ふう)」、貴族や朝廷の公事・宴席などで奏した音楽の歌詞である「(が)」、朝廷の祭祀に用いた廟歌の歌詞である「(しょう)」に大別されますが、このうち「風」は、周・召・邶・鄘・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳の十五の国と地域の小唄や民謡を収め、「国風」とも呼ばれていて、庶民の生活や、男女のことを主題にした素朴でおおらかなものが多いようです。 


周と召は、下に南をつけ、「周南」、「召南」、他は、「鄭風」、「斉風」のように風をつけて分類されています。
 この詩は、「斉」のもの。斉は、「太公望」呂尚の封じられた国で、現在の山東省付近にありました。

 この詩は、「」をアサと読むか、「チョウ」と読んで、朝廷、官吏の勤めと解するかで、詩の意味が変わってきます。通常の解釈では、朝と解して、この詩は、夫婦の朝の風景を詠んだものとされていますが、松枝茂夫さん、白川静さんは、會を男女の媾會であるとして、逢瀬の後、きぬぎぬの別れを惜しむ歌と解しておられます(松枝茂夫「中国名詩選上」岩波文庫、白川静「詩経 国風」東洋文庫)。「アサ」説では、女が男に「もう朝になったから、帰って。」といっているのであり、「お勤め」説では、「もう、お勤めに行く時間よ」といっていることになります。
 インターネットには、中国の古典を集めたサイトがあり、ここに、この英訳が乗っていました(下参照)。朝を’court’とまた、「會且歸矣」は、’the assembled officers will be going home’と訳して、通常の解釈に拠っています。わたしも、こちらを採用しました。


 また、最後の「無庶予子憎」 もわかりにくいところです。どれが主語なのか。「庶(ひとびと)が(わたし)の(あなた)を憎むことが無いように」(橋本循さん)と読んだり、白川静さんのように子の字は間違って入ったといって「庶(ねがわ)くは、予(わたし)を憎むこと無からん」と読んだりしていますが、どれも無理があるように思います。わたしは、左の英語訳にしたがって、「庶(ひとびと)が、予(わたし)と子(あなた)を憎んでいるのではないかしら」と心配しているものと解釈しました。

"Ji Ming"
The cock has crowed;
The court is full.
But it was not the cock that was crowing;
It was the sound of the blue flies.
The east is bright;
The court is crowded.
But it was not the east that was bright;
It was the light of the moon coming forth.
The insects are flying in buzzing crowds;
It would be sweet to lie by you and dream.
But the assembled officers will be going home;
Let them not hate both me and you.
         (中國哲學書電子化計劃)

(2008/05/26改訂)
「鶏鳴」の印刷用ファイル(a096_print.pdf)をダウンロード


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