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2008年2月20日 (水)

A-124 「葛生」(葛生いて楚に蒙むり)  『詩経』 国風 唐

 

  「葛(くず) 茂り」

                AKY訳

 葛茂り 楚(いばら)を蒙(おお)
 かがみ草 野原にはびこる
 あなたはもう ここには亡
(いな)
 わたしは ひとり
 誰と一緒に 生きたらいいの

 葛茂り 棘(いばら)を蒙う
 かがみ草 墓地にはびこる
 あなたはもう ここには亡
(いな)
 わたしは ひとり
 誰と一緒に 息
(やす)んだらいいの

 粲(かがや)く角(つの)の 枕して
 爛
(きらめ)く錦その身を冪(おお)
でも
 あなたはもう ここには亡
(いな)
 わたしは ひとり
 誰と一緒に 目覚めたらいいの

 夏のながい日 冬 ながい夜
 いつかきっと あなたのもとへ
 冬 ながい夜 夏のながい日
 いつかきっと あなたのそばに

(原詩)

 

葛生蒙楚
蘞蔓于野
予美亡此
誰與獨處

葛生蒙棘
蘞蔓于域
予美亡此
誰與獨息

角枕粲兮
錦衾爛兮
予美亡此
誰與獨旦

夏之日
冬之夜
百歳之後
歸於其居

冬之夜
夏之日
百歳之後
歸於其室

(読み下し文)

 

は生(お)いて楚(そ)に蒙(こうむ)
(れん)は 野(や)に 蔓(はびこ)れり
(わ)が美(ここ)に亡(な)
とともにか獨り處(お)らん

葛は生いて棘(きょく)に蒙り
蘞は域
(いき)に蔓れり
予が美此に亡し
誰とともにか獨り息
(やす)まん

角枕(かくちん)(さん)たり
錦衾
(きんきん)(らん)たり
予が美此に亡し
誰とともにか獨り旦
(あ)かさん

夏の日
冬の 夜
百歳の後
(のち)
其の居
(きょ)に歸(き)せん

冬の 夜 
夏の日
百歳の後
其の室
(しつ)に歸せん


 

 「あの葛でさえも茨という相手がいて、しっかり寄り添うように絡み合いながら伸びている。しかし、かがみ草は、野原やあの人の眠る墓地に乱れ茂って私との間をさえぎっているかのようだ。わたしは、独りになってしまった。これから誰と生きていったらいいのか。これからの長く暑い夏の日、長く冷たい冬の夜を一人ですごさなければならない。
 けれども、いつか自分の命の終わるときには、あの人の眠るこの場所に、必ず私も一緒に眠るのだ。それをはげみに、これからの長い年月を生きていこう。」

 亡き配偶者を偲ぶ、『詩経』の中でも、最も美しい情感に溢れた詩のひとつだと思います。
 私たちの歳になると、いつこの詩が現実のものになるか、心に迫るものがあります。いつかは、夫婦のどちらかがこの思いを味わうことになるのでしょう。でも、そうなったとしても、私たちにも、このことだけは、わかっています。


 「いつかきっと 貴方のもとへ」
  「いつかきっと 貴女のそばに」


[使われている言葉について]

  • (くず)、日本名クズ、マメ科。日本語別名、クズカズラ、マクズ、ウラミグサ(裏見草)。
  • (そ)、日本名タイワンニンジンボク、クマツヅラ科。漢名黄荊(コウケイ)、楚は別名。荊棘ともいい、イバラのこと。
  • (れん)、日本名カガミグサ、ブドウ科のつる草。(注)参照。
  • (きょく)、いばら。韻のために、楚と言い換えている。
  • (いき)、塋域(墓域)。
  • 角枕(かくちん)、角の飾りのついた枕。
  • 錦衾(きんきん)、棺を覆う錦のおおい。
  • 百歳之後、死んだ後。
  • 居、室、墓室、韻のために言い換えたもの。

(注)
蘞:この訳では鏡草と訳している。嶋田英誠さん編の「跡見群芳譜」によると、ブドウ科のつる草で、別名をビャクレンともいうという。「跡見群芳譜」には、写真も載っているので、そちらをご覧になるといいと思う)。べつに「五葉かつら」、「ビンボウカツラ」と解する方もいる。鏡草のほうが、音の感じがいいので、こちらを使った。
  もっとも、「蘞蔓」とは、乱雑なさまをいうのであって、「かがみ草が野にはびこる」と読むのは、誤りだという説もある。この説によれば、はびこっているのは、かがみ草ではなく、第一句と同じ葛ということになるが、それだと、葛が乱雑に茂っているという様をあらわすだけになる。一方、葛が他の植物に巻きつくのを、男女が寄り添う様を表すのだということをいう人もあるので、その場合、葛が、茨にまとわりつくだけでなく、野原や墓地にはびこってしまったのでは、意味がとおらなくなる。わたしは、葛が茨に寄り添っている一方で、鏡草が、墓地を覆って、地下に眠るよき人と自分とを隔てていると解して訳した。

(2008/05/26改訂)
「葛生」の印刷用ファイル(a124_print.pdf)をダウンロード


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コメント

AKYです。この詩を少し手直ししました。
1.AKY訳 第2章
 息(や)すんだら → 息(やす)んだら
2.読み下し文のところ
 第1章、第2章
 葛生(お)いて → 葛は生いて
 蘞(れん)野(の)に → 蘞は 野(や)に はびこれり
 第2章
 誰とともにか獨り息(そく)せん→ 誰とともにか獨り息(やす)まん
3.pdfファイル
 第1章、第2章、第3章
 予が美 → 予(わ)が美(振り仮名をつけました。)
 第3章
 息(そく)せむ → 息(やす)まん

投稿: AKY | 2008年3月20日 (木) 11:18

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