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2008年4月12日 (土)

A-036「式微」(微なり微なり胡(なん)ぞ歸らざる) 『詩経』 国風 邶風

   

   「道行(みちゆき)」

                 AKY訳

ああ!

しなければ・・・ しなければ・・・

あなたに会ったりしなければ・・・

なんで家にも帰れない

なんで夜露に濡れながら

寒さに震えて居にゃならぬ

 

ああ!

なかったら・・・ なかったら・・・

あなたと一緒でなかったら・・・

なんで故郷(くに)にも帰れない

なんで路傍(みちばた) 身を寄せて

泥にまみれて寝にゃならぬ

 

(原詩)
 

 

式微式微

胡不歸

微君之故

胡為乎中露
 

 

 

式微式微

胡不歸

微君之躬

胡為乎泥中

 

(読み下し文)
 

 

(び)なり 微(び)なり

(なん)ぞ歸(かえ)らざる

君之故微(な)かりせば

胡為(なんす)れぞ中露においてせむ
 

 

 

なり 微なり

ぞ歸らざる

君之躬(み)かりせば

胡為れぞ泥中においてせむ



 「あたし、あなたになんか会わなきゃよかったんだわ。あなたにあったりしなければ、そうして、あなたといっしょにきたりしなければ。きっと今ごろは、暖かいお布団の中で寝ていられたのよ。ねぇ、どうしておうちに帰れないの。なんで、こうして泊まるところもなくて、夜露に濡れながら、濡れた泥んこのところで野宿しなくちゃならないのよ・・・。帰りたい・・・。おうちが恋しい・・・。」

 一時の恋に迷って、男と駆け落ちしたものの、乏しい持ち合わせも尽きてしまった。苦しい逃避行に耐えかねて、つい泣き言のひとつも出てきます。
 歌舞伎にでも出てきそうな道行の場面、こういう芝居は、やっぱり福助だろうなぁ。こんなときの福助は、芝居もいいけど、声がね。歌舞伎手帖
(二〇〇八年版)を見てたら、「美声」って書いてあったけど、美声っていうのとは、ちょっと違うのよね。なんていうか色っぽいんです。好きなんだよなぁ、あの声。
 あの声でこんなせりふを言われたんじゃぁ、もぅ、たまりませんね。ぞくぞくします。


[使われている言葉について]

  • 、発語のことば、「ああ」、「それ」、など。
  • 、・・・でなかったならば。・・・しなかったならば。
  • 、なんで、どうして。
  • 、疑問の助辞
  • 中露、露中。野ざらし。
  • 泥中、どろまみれ

 この詩にもいろいろな解釈があるようです わたしは、駆け落ちした女の人の嘆きをイメージして詩にしましたが、帰ってこない夫を待ちわびる詩、あるいは、亡命している君主に帰国を勧める臣下の詠んだ政治的な詩と考える方もいます。
 待ちわびている妻や、亡命しているとはいえ、一国の君主だったものが、何で露にぬれたり、泥の中にいるのか、わたしには、よくわかりません。
 
政治的な詩とする考え方では、「中露」や「泥中」を比喩的な表現として考えることもできるかもしれません。しかし、それでは、主題が普遍性にかけ、民謡として広く支持され、永く伝わるには、弱いように思います。


[詩経の解釈について]

 昔から、詩経の解釈にはいろいろあるようです。同じ詩が、政治的な詩とされたり、恋愛詩とされたり、あるいは亡き人を悼む詩とされたり、まったく違った解釈がされています。

 吉川幸次郎さんは、学人の翻訳、文士の翻訳の区別をされたといわれますが、専門家が学説として主張する際には、はっきりした根拠資料を伴っていることが必要だと思います。
 しかし、中国文学や漢字学の専門家の書かれた訳や解説書を読んでも、例えば「恋愛詩である。政治詩と考えるべきでない。」などと、明確に主張されているにもかかわらず、その根拠になると、 全く記載されていないか、せいぜい、「詩序でそういっている」とかいうような、いわば伝聞記事だけで、著者自身が、何故、そう考えたのか、どうしてそう考えることができるのかが、はっきりした根拠を挙げて、きちんと説明しているようなものは、私の見た限りありません。いいかえると、吉川さんのいう学人の翻訳というものはなくて、ほとんどが文士の翻訳なのだといっていいと思います。

(2008/05/22改訂)
「式微」の印刷用ファイル(a036_print.pdf)をダウンロード


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